うしお

18件のレビュー

レビュー

アルジャーノンは死んでしまった。チャーリイゴードンはまだ生きている。彼が3月8日からの数か月の間にたくさんのことを 学んでいく過程が、知能が高くなったことで起こる周りの人とのかかわりが否応なしに変化して、それに振り回される人たち。 最後にはまた、そうやって得た知識や知性がものすごい速さで抜け落ちて、経過報告がひらがなだらけになっていく。IQが高くなったチャーリイは昔のチャーリイが近づいて来ているのがわかっている。昔のチャーリイは、ただ、ずっとそこにいる。 チャーリイの体の中を、別のチャーリイが通り過ぎた、そこにはきおくが残っている。 チャーリイの幼い頃の人生が、自分の記憶の掘り起こしと分析で少しずつ解き明かされていくのがおもしろかった。昔のチャーリイにも、行動の意味があり、それが母には理解されなかったこと、 家族に会いに行くとき、チャーリイの天才的な頭脳をもってしても、「どんなことばを期待しているのか」たどり着けなかった。人のこころを科学で説明できないのは切ない。 頭が良いからと言って、怒りをコントロールできない。 パン屋のドナーさんはいい人だった。チャーリイがどんどん利口になっていくのを見て、彼を外に出した。まわりの環境がかわってまたチャーリイが戻ったら、「根性あるな」と受け入れてくれた。みんなチャーリイを好きになってくれる。 いつか自分も認知症とかでなにを考えているのかわからないときが来る。でもそれは 小さいチャーリイゴードンが、窓越しにぼくを見つめて待っている 「金や物を与える人間は大勢いますが、時間と愛情を与える人間は数少ないのです」ウィンズロウ先生 彼らがいかにしてあの黙せる魂に献身する道を発見したのか知りたい

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アルジャーノンに花束を改訂版

アルジャーノンに花束を改訂版

ダニエル・キイス/小尾芙佐

自分の中でいちばんの拠り所として存在する自分という身体が自分をじぶんたらしめるその存在自体を認識するときに感じる分かつことのできない過去の記憶や、その自分の性質によって向けられる他人からの視線や評価が苦しくて気持ち悪くて耐えられないとき、その自分を捨てようと思って捨てられたら、幸せになれるのだろうか。過去をどうやって自分のなかで納得させていくのか、あるいは、納得させることができない過去を、すべて捨てて生きていくのか、隠して生きていくのか、(できるのかどうかわからないけども) どうやって幸せに向かって生きていくのか。おもしろかった。 「愛にとって、過去とは何だろうか?」「愛に過去は必要なのだろうか?」城戸が自問したことばを、何度も考えさせられる。 「なりすましたあの数時間の、言い知れぬ悦びが忘れられなかった。」 「人生、良いことだらけじゃないから、いつも“三勝四敗”くらいでいいかなって思ってるんです。ちょっといいことがあるだけで、すごくうれしいんですよ」後藤美涼 「ストンと力が抜けたみたいに両膝をついちゃって、そのまま突っ伏して、腹ばいで泣くんですよ。広い公園の真ん中で。」柳沢 「人生は、常に過去と未来に押し潰されそうになっていたに違いなかった。彼は過去に対しては負い目があり、未来に於いては、父親の罪を反復するかもしれない」 「また愛し直すんじゃないですか?」 「悲しみが極まって、追い詰められて、変身せざるを得なかったのではないか。」 ある男を調べ、真実をつきとめていった結果は、その人が未来に残したもののこれからを想像することにしかならないが前を向いている。 「ぬけがらにいかに響くか蝉の声」←かっこよすぎ

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ある男

ある男

平野 啓一郎

ひとりのオジいサンの脳内を覗く。 あれこれ考えては消し、考えて、忘れ、苛立ち、落ち込み、忘れ、反省し、思い出し、独り言をし、考え、妙に理屈っぽくなってみたり、新聞を畳むのに集中?没頭?忘我?してみたり、少し調子に乗ってみたり、自分の中の正義を信じてみたり、現実の衰えに嘆いてみたり、、、オジいサンって忙しい。 たまご2個割っちゃって、それがウマく焼けなくて、そんなに落ち込むかね?ほんとうにこういう老人がいたら、俺はどうやって接することができるのだろうか。 「いかん、このまま立ち去っては消費者としての一分が立たぬ」 「自由でいられるということは素晴らしいことだ。だが、初めて独りでお出掛けをした幼児のように、いつだって心細いのだ」「こんなに古くなってそんなことを言ってもいられないから、何だかんだと理屈をつけてそれを誤魔化しているのだろう。」 「営業は営業日にしなさいよ」 そして、京極夏彦という勝手なイメージでホラーかと思っていたがそんなこたなかった。 2025/9/6

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オジいサン

オジいサン

京極夏彦

春夏秋冬、学生時代を思い出して、こんなことがあったな、あんなことがあったなと思いを巡らせるのもいい。若いうちの苦労は買ってでもせよと大人になってから下の世代に言うのは無責任かもしれないが、どうしてもそう言いたくなってしまう。なぜならばこの「砂漠」を読んだ私はいま「戻りたいな」と(校長の言葉に反して)思ってしまったからだ。 北村が随所で割愛した思い出も含めて、いまの自分の糧となっている出来事であり、そこにある積み重ねが甘い言葉で私を学生時代のオアシスに呼び戻そうとする。だめだ。前を向いて進まなくてはならない。 「人間とは、自分の関係ない不幸な出来事に、くよくよすることですよ」西嶋 「抗生物質をばんばんあげちゃえばいいんですよ」と言い切る彼があまりにも清々しかったのだ。 「俺、好きだよ、こういうの。馬鹿馬鹿しくて元気が出るよ」鳥井 「人間にとっての最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」校長 長谷川さんを職場の同姓の方の顔で脳内再生していたらまさかのホストにハマって主人公たちを混乱に巻きこむ立ち回りをしていたので慌てて消した 西嶋はサンボマスター山口さん

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砂漠

砂漠

伊坂幸太郎

いぶきのオッサンが退場したとき、深いいたわりの心、愛とは許すことであるということが感じられて胸が痛くなった。泣きそうになった。 みんながみんなの大切なもののために戦う。 生きること、死ぬこと、迷い悩みながら自分を見つけていく物語 「情とはなにか、考えればすぐにわかることだ。」「死ぬことを知らずに、真の恐れや、真の別れを、真の悲しみを心得ているはずがない。心と心のつながりや、気づかいや、いたわりを、理解できるはずがない。われわれはいつか死ぬ身であるからこそ、近くにいれば求めあい、遠くにあれば慕いあうのだ。そうではないか?」科戸王(しなどのおおきみ) 「あやまるって何をすることだ?」「取り返しの付かないことをしてしまったけど、この気持ちに免じて、罰せずに、怒りをといてほしいと頼むこと、すぎたことをしこりにせずに、忘れて欲しいと頼むことどうか許してほしいってこと」稚羽矢 「許してやりなさい。気の毒な娘の死に、そなたは傷ついただろうが、許しこそ、そなたの大きな力となるものなのだから。一足先に女神のもとへ休みに行くが」伊吹王(いぶきのおおきみ)

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空色勾玉

空色勾玉

荻原規子

家族の形、存在とは。 誘拐事件を通じてつながる愛の形の物語、たくさんの人と関わり合いながら育ってきたひとりの少年はいま何をしているのか? 家族のことを大切に思って、対象の本質を肉眼で見つめ、そしてそれを写し出すという手法、どう写っているのか、水を描くのではなく、見えているままひとつずつ描いていくことでいつのまにか水があるように見える。 「いつか、広いアトリエで一緒に描きたいね」 「世界から存在が失われていくとき、必ず写実の絵が求められる。それは絵の話だけじゃなくて、考え方、生き方の問題だから」 「私はきちんと『人間』を書きたい。仮に誘拐に加担したとしても、、、、人には事情がある、と」取材対象者の目を見て言った 「ちょっと散歩がてらに、、、粗品でもどうかと思って」

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存在のすべてを

存在のすべてを

塩田武士

クジラに出会うなんて一生に3回もあるか?いいなー キナコと子ども、あのときの自分と同じだとあとから気づくなんて、でも、そうだよね。人間、いつもみんなのこと冷静に見ていられる訳じゃないもんね。 「キナコはいま、第一の人生を終えたんだ。でもね、彼らはきみの前の人生の登場人物になったから、だからきみに新しい傷をつけることはない」 「人から言われた言葉なんだけどね、ひとには魂の番(つがい)がいるんだって。愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの」 とにかく後半のたたみかけ、たくさんの事実とみんなの優しさ、キャラがたってて楽しいのに、内容は心がえぐられるような痛い話、みんなの痛い記憶、読み進めながら、ふたりの幸せを心から願わずにはいられなかった

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52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち

町田そのこ

ぞくぞくした感動が続く、愛の話、、、なのか? 「壊れた人間の手助けも、もうたくさん」 「みんな、一番大切な人が一番傷つかない方法を考えた」 「彼は優しいから、失敗するとものすごく気にすると思う」 前の台詞を読んで、次の台詞に移って、みんなの少しずつのすれ違いが、思い込みが、相手のためを思って言った言葉、あげた物、置いた物、出した音、受けとった側の気持ちって本当にわからないけど、でもこうやって丸く収まることもある。その気持ちを、行動を「わたし、きらいだもん」って相手に言える?言えない。心のなかにグッと押し込んで笑顔でありがとうと言うよね。嘘をつくよね。嘘って便利

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Nのために

Nのために

湊かなえ

コンビニさんの話 ハッピーエンドでよかった。 マニュアル通りにコンビニ店員として働く古倉さん、 「なんとなくコンビニの音が聴きたくなり、ミホの家の帰り、夕方の店に顔を出した。」という古倉さんの本能が見られたせたシーンはホッとした。 収まるべきところに収まった安堵。コンビニ人間として生き生きと表現された古倉さんの姿が、清々しいラストシーンに繋がる。 コンビニは生きている。変わるけど、「変わらないね」と言われる。生きているコンビニが、なにを求めているのか、わかる。なにが一番大事なのかわかる。求められている最適解がわかる。コンビニさんのために生きている人間、コンビニを完全なものにするために歯車になる。結果は数字で表れる。売り上げ、発注、目標を達成。白羽や妹の影響で一度は変化を求めていた古倉さんが、最後は変わらずコンビニに戻っていく。社会の歯車の一員になると言うことは、古倉さんのことを言うのかもしれない。 法律というあいまいなルールで生きている現代人に対し、いわゆる「社会のルール」がマニュアル化されていないことで困惑する人もいる。なにを指針に人は生きるのか?なにが自分にとって(人類にとって)合理的か?なにが「普通」なのか?古倉さんの目線を、世界の捉え方を通じて、最近よく耳にする「多様性」を考えることができる。

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コンビニ人間

コンビニ人間

村田 沙耶香

カメルーンの青い魚「生きていけるかどうかは、こいつら次第だ」りゅうちゃん 夜空に泳ぐチョコレートグラミー「もう一度あたしを褒めて。よくやったって」近松晴子 波間に浮かぶイエロー「俺はもう死ぬけど、環さんの中で生きていたい」重史 溺れるスイミー「何にも溜まってないだろ」「淵みたいね」宇崎くんと唯子 海になる「欲しがっても手に入れられないものなのよ。どんなにボロボロでみっともなくても大切にしましょうよ」清音の妻

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夜空に泳ぐチョコレートグラミー

夜空に泳ぐチョコレートグラミー

町田 そのこ

ひとりぼっちは寂しい 消えないデジタルタトゥー、世間の目、私たちがどういう関係なのか、示す言葉は無い。「判定は、どうか、わたしたち以外の人がしてほしい。わたしたちは、もうそこにはいないので」 警察の冷たい取り調べのシーン、心臓を柔らかく包んで少しずつ血を塞き止められてるような圧迫感だった。はやく解放してくれ、はやく楽にしてくれ、誰かこの真実を知ってくれないか 「そんなものでは、救われてこなかった」 理解なんてできないとは思いながら、誰かを理解しようとして、でも、それが相手との溝を作ることになるかもしれない。そんなことは解っていながら、干渉する。 触れなくても良いものに、触れる。なぜだろう 真実は、当事者にしか解らない。それを公にすることに、なんの意味があるのだろう。 マイノリティは理解されない。理解されなくても良いと思っている人がいたら?理解しなくていいこともあるということを理解したい。

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流浪の月

流浪の月

凪良 ゆう

人形がめっちゃ関わってくるかと思ったらそれがブラフでぜんぜん違うところでのトリック。 三重人格で全部自作自演って、なかなか気づくの難しいよね。シャッターアイランドみたいな

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人形館の殺人 <新装改訂版>

人形館の殺人 <新装改訂版>

綾辻 行人

和菓子の知識がそのままミステリに。 立花さんの師匠、めっちゃ好き さくっと読めてほんのり恋の話が心に染みる。

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和菓子のアン

和菓子のアン

坂木司

家族の話 最後の、家族写真がいちばんすき ほっこりした。瞬間を切り取る写真のなかには、そのときのみんながそのまま残される 次に、プラスティックファミリー どんなかたちであれ、あと、主人公みたいに俺も、ふとした一言を支えに生きている。から共感できた。

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家族写真

家族写真

荻原浩

怖かったけど、最後まで読めた、、、 読んでる途中から、主人公の向かう先がわからなくなって、だって俺はこんな体験してないから。でも、現実世界にこの状況があるかもしれなくて、 ドキドキが止まらんかったのは、やっぱり危篤の父親のとこへの帰省やね。 あのピリピリした空気感を文字で表現する作者、すげえ なんかわからんけど涙出てきた。 眠たい。 一気読みしてしまった。夜更かしするつもりじゃなかったのに こどもは親を選べない。

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朔が満ちる

朔が満ちる

窪 美澄

正直難しくてスッキリとかせんかったけど、ぞわぞわする感じの続く本。死んだ人を、生きてる人がどうとらえるか。 『おっさんはおっさんの世界で生きるしかないやろ』 そのとおり、死んだ人なんて関係ない。いま、自分が、どうしたいか、自分の世界で生きるのか、生きるのをやめて死ぬのか、自分で決めるしかないんかなって思った 『冗談じゃねえや、と僕は思った。美しいまま死なれてたまるかよ。もっと長生きしろよ。』 この歳で死ぬ前の気持ちはわからんけど、最後のあがき、見透かされてたらこんなに恥ずかしいことは無いわな。でも、そこまでして偲んでもらいたいって気持ち、墓をたてて、誰かに思い出してもらいたいって気持ち、死ぬ前になったら俺も、俺の死後の俺以外の世界に期待しちゃうんやろか。と思った。 『死にました。さて、なぜでしょう?』 この本は、そればっかり。でも、生きたいところに生きる、かっこいいな。でもじゃあなんで人は死ぬ?生きたい人ばかりじゃない。なんで?自分が自分でなくなった気がしたから、昔に戻りたいけど戻れないから、せめて今の自分のままで時間を止めたかった?死んだ後の事は、知らんぷり? 俺の目は、輝いているだろうか 『人生に必要なことは僕が教えてやる。小学校に入ったらー』 これはいつか言ってみたいセリフ 『たぶん僕は、正しいことをしたかったんだ』 その気持ち、わかるよ。俗物を集めた動物園、そのなかで自分だけは自分でありたい、正しく有りたいと、でも、悪いやつの方が圧倒的に多いし、味方がいるんだ。 どうして?もしかして、人間の社会ってのは、根が腐ってんのか? いいんだよ、みんなそう考えてるんだ。でも、本当にそれを実行できる人がいたら? 確信犯的に、相手を殺すことができる人間がいたらどうする?

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本多孝好