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レビュー
きょうだいが多いひとと結婚し子供にいとこつくってあげる 父親になる気のないひとを夫に選んだのはまぁ母なんだけど 親とは口もきかない子もいるらしいわたしなんか明るいほうだ 親子って結び目見えないものだからほどこうとするだけ無駄なんだ 小学校同じクラスだったのに「おうっ」て言うだけ男はつまらん
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ともだちは実はひとりだけなんです
平岡あみ/宇野亜喜良
半額の焼きそばパンを分け合って川辺にいない僕らになりたい ねえちょっとじっとしていて千本の仮縫いのまま生きてもいいの 非常階段降りてまた駆けていく死神だって春休みです 人生のメニュウをひらき最初からアイスクリームにしたい朝です 百円の代わりに蝶を投入し幽霊会の時報きく春 着ぐるみは白い毛だらけ生き残るぼくらの傷は商品になる 命名の権利はここで返すから暗くて大きい買い物をする
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オーロラのお針子
藤本 玲未
むらさきの性の芽生えはひつそりと僕から夏を奪つてゆきぬ これからは毎日が冬胸底に咲かない薔薇を育てて生きろ 堂々と生きていけつて簡単に兄は言ひたり言ひてくれたりな 折れさうな氷柱を胸に突き立てて螺旋階段降りてくるなり 嫌はれてゆくことまた必然として凜々と母老いゆけり 外さるることなき枷を引きずつてふたり見上ぐる鬼子母神像 非難とも美辞ともつかぬ鈍角の言葉投げつけ出かけてゆきぬ 夏近き夜の湿度のくるしさよ ひとりでゐてもうるさきわが家 塩をまきながら逃ぐれどふるさとが母のやうなる顔もて迫る 期待などしない されない 僕はまだ調子はづれのピアノでゐたい 異性愛などこの世にはない、と言ふごとくに楡は楡と寄り添ふ 「狂気とて愛」さもあれば僕たちは小鳥を潰しながら抱きあふ (ウスターソースとタバスコが好き)海馬にはどうでもいいことばかり残つて 氷点下五度の瞳のしづけさにしばし見とれてのち頬を打つ 撫づれども打てども白くすべらかな痛みが右の掌に残るのみ 許されるたびに汚れてゆく腕を三十九度のお湯で濯ぎぬ 英雄のやうな名前をもつ君に騙してもらふため会ひにゆく 磔刑が似合ふくらゐにやつれたる頬が西日に灼かれてをりぬ 永遠に終はらない冬「俺たちはさういふ国で生きて来たのさ」 (かつこいい去り際なんかあり得ない)海を隔てて恋終はりたり
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銀河一族
小佐野彈
この接吻は弱アルカリ性か強酸性かリトマス紙の舌を出す 「軽い失恋ですね 全治三週間です」誤診だった三年経ってもまだ治らない 小児科が一つもない街に動物病院は三つ 蛾を殺しすぎた日は眠りの繭が紡げない その男は止たがいいよ影を見てごらんオオカミの形をしているから 街角で夜のスフィンクスに謎をかけられた黙って喰われてみようか 「ナイフの研ぎ方を勉強しに図書館へ行く」古本に挟まれていたメモ書つきの栞なぜか捨てられず コックピットの二人は沈黙のまま家族が空中分解した 母との大喧嘩を覚悟の帰省が黙って風呂場の掃除などしている 言葉がまっすぐ届かないのは地球のカーブのせいにしておく 腹をくくるか首をくくるかどっちもイヤッハムレットの独白訳してみた 「極楽湯ってこの近くですか」「ええ、極楽は真っ直ぐ行ってすぐ右です」足止まる 前進し続けないと死ぬというサメのデザインの完璧 チューブから緑の絵具を絞出して芋虫の死
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上映禁止
蛇夢
P6 眠っていたことに気がつくのはいつも目が覚めてから ひかりのなかで P8 君よりも君の躰が好きだって言われても私ここにいるしか 白ければ雪、透明なら雨と呼ぶ わからなければそれは涙だ P11 思い出は増えるというより重なってどのドアもどの鍵でも開く P13 悲しみをかくまうためにちょうどいい躰と思う湯冷めしていて P14 今きみが触れているのはこころかもしれないから優しくはしないで P15 素裸で体重計に乗っている知りたいのはこんなことだろうか P35 テルミンと手との関係 恋人でなくなったあと友達でもない P48 ふたりきりになったとしても丸ノ内線ですかって言うだけだろう P84 革命前夜 空腹を満たすものだけを美しいと言ってしまえばいい P108 手に入れるものはいつかは失くすものだからあなたを手渡さないで P113 誓わないと誓ってほしい 永遠をまだ誰も見たことがないから P157 君と見たどんな景色も結局はわたしひとりが見ていたものだ
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心がめあて
鈴木晴香
P13 がくがくと夕暮れていくもう君は人の形をやめてください P14 君をなすあまたの骨が透きとおり遠くの街へ行ってしまった P16 夕暮れて淡き輪郭 膜という概念の中に人は生まれき かたえより覗きこまるる心地する眠りの中にもう一人居る P17 暗いだけの淵をめぐりて合歓満ちるあなたは合歓を知らぬだろうが 骨格の内に林を育てきつ 自分を説明する人きらい P18 透明な器具多き部屋 文章を書く人だとは思わなかった マカロニの膨らむ時間湯を越えて棒の木林遠く戦げり P19 浪人の誕生日には眠りつつ杉山隆は自殺と思いき P21 あとは馬鹿に収束するだけだよと君に祝われて不意に浪人終わる P22 感覚は枯れてゆくから 明日君にシネマトリコの木をおしえよう 川のない橋は奇妙な明るさで失うことを教えてくれる P26 解剖のにおいの中に立っているふいに季節がわからなくなる 耳も尾も白くなりたり死ぬときに冷たいというより色が退くこと P29 右からの横顔だけを知る人を魚影のように思い出す夏 P34 二十年同じ一個の脳をもち私はつづく、夢を見ながら P39 ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて P41 会いしより季節は夏が過ぎしのみ君のコートの色を知らざる P42 「胃の中は体の外ね」昼の月見上げる人と駅まで歩く 輪郭がまた痩せていた 水匂う出町柳に君が立ちいる P43 中庸は極端のひとつと言い切りて鈴掛の実を蹴る君の足 P46 感情がはみ出さぬよう努力する地上の秋を鳥は流れて P47 分析を重ねて冷めてゆく気持ちミュシャの絵ハガキ壁よりはがす どこに行けば君に会えるということがない風の昼橋が眩しい P52 窓際にわれら下敷きを閃かせいつも「前夜」にいると思いき P54 「それじゃあ」と言ってしまえば関係は天秤室に終わるのだろう P56 ユリカモメ群れるかたさの冬が来る 空想癖は人に言わない P59 目が覚めてもう会えないと気づく でも誰のしずかな鎖骨だったか P62 対岸をつまずきながらゆく君の遠い片手に触りたかった 傘の黄が男の顔を染めていしことばかりなる一日のおわり 一室に白衣満ちたりこのごろは余分なことを言わなさすぎる P67 海のそばに育ちし人の追憶に私の知らぬひろがりがある P68 驢馬の耳二本並びて光りおり言い出しがたきことはそのまま P74 表情のわからない眼よばらばらと紙をこぼした私の前で P78 門をたたけ…しかし私ははるかなるためらいののち落葉を乱す 関係は日光や月光を溜めるうちふいに壊れるものかもしれぬ P80 風圧のとどく近さに白衣揺れ そののちの物語というものはない P82 鈍感でごめんね鳥が群れるとき鳥の影しか見ていなかった P84 あこがれは入れ子細工のくらがりを繰り返すごとひとりでに消ゆ 掌の他人の厚みもてあそぶ 鈍く光りてくずれゆく雲 もてあそぶ掌ひとは夕暮れに追いつめられて泣きそうになる P91 蝋燭を間に置いてこちら側という夢も見るはるかな食事 銀色の部分ばかりが動きいし食事の記憶 君だったのか P93 天秤にかがめば粉が飛ぶ気配 誰の都合も聞きたくはない P95 ひかえめは美徳といえず組む脚の浮いているほうのつまさき揺らす P96 ロッカーを閉じたる君の手の角度白衣の張りの中の全身 ガラス棒でつつけばやさしく結晶はくず!あなたは現実すぎる P97 目の上をなめらかに上下する皮膚の動きばかりを見ていたような P99 もう何度エレベーターが一緒でも遠のく影のようにはかない P101 灰色の茄子の形に整いし猫の眠りに片手を垂らす P102 あるべきであった時代が私にはなかった 径を塞ぐコスモス 開架式書架をへだててひらひらと行き来する君 深刻ぶるな P104 顎に手を 読んでいるのかいないのか文献コピーを斜めに据えて 血管を浮かせて遊ぶひるさがり遠くでずっと覚えていてね P106 突き合わす両手の指を口許へ 問題なのは濃度だろうね P108 きっかけの時を測りて見ておれば誰の睫毛もけっこう長い 人の名は呪文のように何年も残りて意味を失いしかな P110 ひつじぐも 君が私に気付くべき秋にも雲はにじみ、くずれる P111 手の先に指を集めてはみたけれどという眼で君が俯いている P124 無防備にやさしく我にひらかれていたるひとりを失わむとす ごく細き中洲にも木は育ちおり枝は揺れおり君も痩せしか 教科書を売りましょう春ほおづえをついているのはしずかな頭部 P125 指になぞりきれいな眉ねと言いたりき別れ際なれば言い得ることも P127 無傷で*いられるわけがない 枝も以前ほど私をとらえはしない P132 日照り雨むかしの何かのように降るあるいは君をうしなう朝に P133 その人に恋人のいる日々猫の耳うらがえしたり爪おさえたり 柿の葉の大きな音にわたしたちひとつの場所に長くいすぎた P137 君の手の触れゆく道のほうきぐさかぜくさもはや理性は飽きた P141 柚子色のひとつの時期はゆく いっそ神様が決めたことならよかった 温室に鉢はさまざま重ねなる自信がないのはいつからだろう P148 ねこじゃらしに光は重い 君といたすべての場面を再現できる P155 柿の木の小枝の間の空気まで白く見えて自転車きしむ P157 枕元の明日着る服によったしわおばけの顔のように見えた日 P174 風の音が碧い流れに変わりゆく風呂とトイレは暗いのがいい P175 誰か地図をくれないだろうか夏の日の 歯ぎしりするほど空は青いが P184 においには敏感な私をかすめてはこれは幽霊のにおいだろうか
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日輪
永田紅
あぶれた仲間が今日もうづくまつてゐる永代橋は頑固に出来てゐら 坪野哲久 夜明けの様に大洋の様に暴風の様に大衆の心に沁みこんでゆく階級意識! 中村黒尉 俺が巻いた枕時計の音ではあるが眠たいばつかりに癪にさはらあ 久賀畑助 貴様らにや健康保険があるが機械にやないんだ 気を付けろとぬかしやがる 出原実
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プロレタリア短歌
松澤俊二
寺山修司 撃たれたる小鳥かえりてくるための草地ありわが頭蓋のなかに 燃ゆる頬 森番 蝶追いきし上級生の寝室にしばらく立てり陽匂いして 列車にて遠く見ている向日葵は少年のふる帽子のごとし 草笛吹くを切なく聞きており告白以前の愛とは何ぞ 煙草くさき国語教師が言うときに明日という語は最もかなし ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし 灯台に風吹き雲は時追えりあこがれきしはこの海ならず 日あたりて遠く蝉とる少年が駆けおりわれは何を忘れし またしても過ぎ去る春よ乱暴に上級生のシャツ干す空を 歳月がわれ呼ぶ声にふりむけば地を恋う雲雀はるかに高し 季節が僕を連れ去ったあとに 失ないし言葉かえさむ青空のつめたき小鳥撃ちおとすごと 遠ざかる記憶のなかに花びらのようなる街と日日はささやく 失ないし言葉がみんな生きるとき夕焼ており種子も破片も わがにがき心の中にレモン一つ育ちゆくとき世界は昏れて 祖国喪失 マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
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現代短歌全集(第13巻)
上田三四二
塚本邦雄 未來史 平和について 革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ 地主らの凍死するころ瓶詰のキャベツが街にはこび去られき 輸出用蘭花の束を空港へ空港へ乞食夫妻がはこび 賠償のかたにもらひし雌・雄の蘭魚をフライパンにころがす 元平和論者のまるい寝室に敷くー純毛の元軍艦旗 市民 貴族らに扉あかるくひらくたび、 青銅の蝶つがひが軋めり 騎兵らがかつて目もくれずに過ぎた薔薇苑でその遺児ら密会
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現代短歌全集(第11巻)
上田三四二
前田夕暮 生きてゐるという平凡な事実が勿ち不思議な現象をみせる歓び 自分の手と手を固く握りしめて、はつきりと自分の存在を知る、冬! あけっぱなしの手は寂しくてならぬ。青空よ、沁み込め。 わけのわからぬ不安に堪へられぬのだ。咆へろ!と体のなかにわめくもの
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現代短歌全集(第10巻)増補版
上田三四二
与謝野晶子 くろ髪やまだあざけりの心もて春に会はぬをよろこべる人 うるさしや小鳥の話飽かずする客人早く鳥となれかし くれなゐと思へる胸に灰色の塔いつの間にか建てられにけん 人はやく酔ひたまふかなわが見つる海を語れば恋を語れば わが思ふ人にならべて見るものか華奢に艶めく初夏の風 元日は犯せる罪のかなしさのごと雨つづきしば杜鵑啼く 恋すれば日に三度死に三度生くこのおもむきのあわただしさよ 前田夕暮 一室のうちに数人のきちがひが皆立てひけりむきむきになりて 白蓮 われはここに神はいづくにましますや星のまたたき寂しき夜なり 骨肉は父と母とにまかせ来ぬわが魂よ誰にかへさむ 何物も持たぬ此身の重荷ただ吾はわが身をいかにかすべき 今日もまた髪ととのへて紅つけてただおとなしう暮らしけるかな 吾は強し怒りを胸にたたみつつ思ひなおして空ゑみもする いつの日の君が涙のゆめの跡今わがふめる道の辺の花 ベコニヤの花の眠ると君が来ます夕べのくるといづれか早き 山田邦子 太陽よ一人の女永久に汝れに背きて死ぬと記憶せよ
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現代短歌全集(第3巻)増補版
上田三四二
死ぬまでに読める本、1冊しか選べないなら必ずこの歌集と笹井宏之さんの歌集で迷う。 好きな人たち全員に贈りたい。し、好きな人たち全員に読んでほしい すべて、あまりにも好きだから選んで引けないけど…… P62 逆鱗にふれる おまえのうろこならこわがらずとも触れていたいよ 泣く以外に良さを表せない、どれだけ説明しようとしたって「この一首」以外の表現ってない 井上さんの世界をもっと知りたいよ
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永遠でないほうの火
井上 法子
読み終えてありがとうって真っ先に言いたくなるし、勝手に救われたなと思う(でもそんな勝手な重さをものともしないくらい、すべての歌が軽やかで素敵だ) P60 できたてを舌にのせても熱くない木のスプーンを目標とする すこしずつ存在をしてゆきたいね なにかしら尊いものとして 初めて好きになった短歌の人が笹井宏之さんで、中でもこの一首が大好きで大切で、浪人生の時にお守りみたくずっと頭の中に置いていた。 『できたてを』の歌は勝手に返歌だ、と思って、読んだ瞬間泣いてしまって こういうふうに自分のために生きていきたいし、それが勝手に誰かの救いみたいなやつになってたらいいなと思った。 文フリで手震えすぎて一緒に行ってくれた人に名前書いてもらったのもカキモリのインクが素敵だったのも全部が宝
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風にあたる
山階基
P21 発音のできない名前がぼくらにはあって抱きしめ合うとき頭でわかる P24 轟音をぼんやり聞いて電車だって気づいて考えてたこと忘れてしまう P31 よく知って、もっと嫌いや好きになるよ 感情に捧げる価値があるうちに P40 夏にぬいぐるみは暑いけどあたたかいから一緒にいたわけじゃない ね? P91 夢の中で聞いたから本当は音ですらないのだけど、あなたの声 P100 電話すれば出るだろうけど 電話をすればあなたの声がするだろうけど P107 終点が最寄りの駅で、いつもわたしはとりのこされるばかりなんだよ P108 その顔じゃまぶしいのかわたしを好きなのかわからない夜の自販機の前 P134 爪切りを貸したら爪と爪が混ざる爪切りの中 永く 生きてね P136 走馬灯に出てほしいけど出てこないという出かたもあるよ なにそれ! P138 またね 目を瞑れば話したいことなんて皆嘘になるだろうけど また 『爪切りを貸したら…』が一番好きかも 一緒にいることが当たり前になってきた生活と、ふっと有限に気づいたときの、遠のく感じとそれでも自分のために祈らざるをえないところが切実で好きだ 第一歌集を読めばまた違うことを感じるだろうし、(リズムに)慣れていないのもあると思うけど まっすぐとも違う、し、うまく今の自分では通しては好きになれなかった なんとなく見たことがある気になるのもちょっと(自分が)嫌になって、読み通すのにけっこう疲れてしまった 甘いっぽい単語の連続が苦手なのかとか、愛・どかん、みたいなのが苦手なのかとか考えたけど、その要素があっても大好きな人はいるのでほんとに今合わないだけなのかもしれん
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わたしの嫌いな桃源郷
初谷むい
P15 無意識のままに歩いて気がつけばいつものように会社の前に P20 真夜中の暗い部屋からこころからきみはもう一度走り出せばいい P21 ヘッドホンしているだけの人生で終わりたくない 何か変えたい P30 クロールのように未来へ手を伸ばせ闇が僕らを追い越す前に P32 うしろ手に携帯電話抜くときにガンマンになった気がする僕は P40 あのときのベストソングがベストスリーくらいになって二十四歳 P58 逃げるわけにもいかなくて平日の午後六時までここにいるのだ P59 遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから P107 「悲しみ」とただ一語にて表現のできぬ感情抱いているのだ P112 生きているというより生き抜いている こころに雨の記憶を抱いて P119 ただ好きと言えばいいわけじゃないのだ 大人の恋はむずかしいよね
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歌集 滑走路
萩原 慎一郎
平方イコルスンさんが好きで、装画を担当されたというお知らせで偶然知ったにわかだったけど 読み進めるほどギリギリと落ち込んで、まあでもこんなもんだったよなという受け入れみたいな気持ちが生じた ニュートラルギアで進む日々を愛せとは言わないけど、いいんじゃんと思うよ P10 嫌いとか言葉にせずに こう なって こう なまま 会えちゃうもんですね P14 良い事だ 寝てる場合じゃない夜にこんなに眠くならないことは P21 洗濯物干して出かけて降る雨を悪いとも良いとも思えなかった P27 この町を町にしているコンビニにたまにいるいいひとすぎる人 P31 玄関へ三日に一度やってくるここより高い部屋の広告 P33 雨が降るって知っててでも手ぶらで行けば濡れるかもしれなさがよかった P43 洗濯機揺れて小さなアパートも揺れて春の日を生きていること P54 警報が今日もどこかで発されて警報を出すプロがいること P61 こんな時間に届く郵便こわすぎる 見たら届いていなくてもっと →これ、(勝手に)本当によく分かって 自分は左耳の裏でチャイムが鳴る夢…?をよく見る 怖すぎて玄関へ行けたことはないけど P74 起きたら夜で、だけど電気でよく見えて 生きててよかったことほんといっこもないな P79 寝る暇も惜しむ のがもうやれなくて、心ってこうやって終わって P89 夏の畳のタオルケットの昼寝ってなんか 起きてたら泣いてないすか? P101 映画とか見る体力のなさのことを話す でもおもしろさも話す P120 いつかあなたの目の前でやって見せたいよ涎の出るような眠り方 あとがきを読んだら今の毎日は楽しいということが書いてあって、勝手にほっとした。なくてよかった日ばかりではなくて、あって良かった日がこれから先もどんどん増えていったらいいと思った。 本当に表紙が素敵だ 題字も、お名前も
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了解
平出奔
初めて読んだときは読みにくいと思って半ばでやめてしまったけど、今読んだら結構面白いのとぎりぎりの狂いみたいなのがあって良かった。 白鳥の子をかばふため家鴨等に棒ふりあげるこどもでありき われの眼のうしろに燃ゆるあをい火よ誰知るものもなく明日となる ☆壁にかけた鏡にうつるわが室に六年ほどは見とれてすぎぬ ☆今日われはまはだかで電車にのりてゐき誰知るものもなく降りて来ぬ カツフエエを飲まねばならぬとわれいはぬわれは珈琲でかた眼失くした ☆われのほかまだ誰も知らぬすばらしきわれを信じてわらはせてゐる ☆片づけてもかたづけてもつひに気に入らぬ部屋のまんなかでくらくらとなる かなしみにひびが入つてはと眼も口も耳も閉ぢでゐた十八なりき
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シネマ復刻版
石川信雄(1908-1964)
『奈々子に』を 好きな人(友達恋人問わず)が親にこんな愛され方をしていたらいいなと思います、とお勧めされたので、新幹線に乗る直前にたまたま寄った本屋さんで載っているのを見つけて、買った。 一編目から泣いてしまったので新幹線で読むのはやめたんだけど、こんなふうに人のことを思いたい、そして好きな人たちみんながこんなふうに思われていてほしい、と強く思った。 そして『I was born』はおそらく教科書で読んだことがあるんだけど、こんな内容だったか…!?と衝撃だった。「(否応なく)産まれさせられる」ことは僕にとって単純な文法の問題だったけど、父親にとっては母親を犠牲として産まれてきた子ども 蜉蝣は世代をつなぐために死と生を繰り返すけど、人間も同じではないと言い切れるのか。生きる意味…おそらく12、13の息子にこの喩えを話すの凄まじい 『祝婚歌』もすごく好きだ まっすぐ二人がふたりでいられることの嬉しさを綴っていて、特に「二人のうちどちらかが/ふざけているほうがいい/ずっこけているほうがいい」というところが、泣いている… こういうふうにいられたらな本当に
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にほんの詩集 吉野弘詩集
吉野弘
これまで十回以上読もうとしてはついていけずにいた本、とうとう読み切った。文体のリズムに乗れなかったから、ひたすら一歩ずつ進んでいてそういう読み方が合っているかもしれない。 水星の章がいちばん好きでそこだけ何度も戻って読んだ。戻るたびに泣いた。 ビーがコンスタントに「わたしを利用してくれてありがとう」「たとえ、わたしが利用されたがらなかったとしても」と伝えるところがあって、誰にも見出されず、誰からも信用されないのならたとえそれが望んだことではなかったとしても、されたいなと思う。 圧倒的なラストのためにすべてがあり、存在の善さとはまっすぐさだと思う。自分をよく見せよう、好かれたいという受動の飾りたてではなく、あなたのその素晴らしさのために、どうしようもなくしてしまう行為そのものだ。はじめて他者が立ち現れたときに生まれていたらいいなと思う、素朴な愛のために生きていきたい。
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タイタンの妖女
カート・ヴォネガット/浅倉久志