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2023年2月3日
むらさきの性の芽生えはひつそりと僕から夏を奪つてゆきぬ これからは毎日が冬胸底に咲かない薔薇を育てて生きろ 堂々と生きていけつて簡単に兄は言ひたり言ひてくれたりな 折れさうな氷柱を胸に突き立てて螺旋階段降りてくるなり 嫌はれてゆくことまた必然として凜々と母老いゆけり 外さるることなき枷を引きずつてふたり見上ぐる鬼子母神像 非難とも美辞ともつかぬ鈍角の言葉投げつけ出かけてゆきぬ 夏近き夜の湿度のくるしさよ ひとりでゐてもうるさきわが家 塩をまきながら逃ぐれどふるさとが母のやうなる顔もて迫る 期待などしない されない 僕はまだ調子はづれのピアノでゐたい 異性愛などこの世にはない、と言ふごとくに楡は楡と寄り添ふ 「狂気とて愛」さもあれば僕たちは小鳥を潰しながら抱きあふ (ウスターソースとタバスコが好き)海馬にはどうでもいいことばかり残つて 氷点下五度の瞳のしづけさにしばし見とれてのち頬を打つ 撫づれども打てども白くすべらかな痛みが右の掌に残るのみ 許されるたびに汚れてゆく腕を三十九度のお湯で濯ぎぬ 英雄のやうな名前をもつ君に騙してもらふため会ひにゆく 磔刑が似合ふくらゐにやつれたる頬が西日に灼かれてをりぬ 永遠に終はらない冬「俺たちはさういふ国で生きて来たのさ」 (かつこいい去り際なんかあり得ない)海を隔てて恋終はりたり
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銀河一族
小佐野彈
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