すだれ
レビュー
金沢の花街を舞台にした小説。 主人公の二人の芸妓の友情、その二人を取り巻く人々の温かい人柄が良い。 金沢の方言も味わい深く、金沢出身の著者からではの描写も光る。唯川恵の新たな代表作になる予感がする。 戦前の金沢もの、シリーズ化を熱烈希望。

おとこ川をんな川
唯川 恵
いろいろな人の人生の重なりを、廃校が決まった小学校の秋祭りの日、1日だけに絞って描いた連作小説。傑作。 第1話終了時点で、登場した各家族のプロフィールを作っておくとより楽しめる。 元教師の義母の生きざまを描いた「クロコンドルの集落で」が特に良かった。

ドヴォルザークに染まるころ
町田そのこ
作者の新たな代表作になること間違いなしのサスペンス小説。 震災を始め、人の力ではどうしようもないものに、抗いもがき続けた真柴と陣内。彼らの闘いから目が離せず、気づけば一気読みしてしまっていた。 最後が何とも言えないが、幸せな読書経験だった。 それにしても、直人がいて良かった。彼の存在にほっとする。

逃亡者は北へ向かう
柚月 裕子
淡々と過ぎていく、団地暮らしの幼馴染み二人の物語。 さして裕福でない二人なのに、文化的には結構充実している。 不意に出てくる音楽や映画の話がわりと渋くて、文化の中心地で生きてきた東京の50代ならではという感じがした。 レスリー・チャンの東京公演に言及した下りがあって驚いた。そこまで一般には話題にならなかったと思うのだが。作者も行ったのだろうか。

団地のふたり
藤野 千夜
上田早夕里らしい、ファンタジーとSFの間を縫うような短編集。 白眉はなんといっても「南洋の河太郎」だろう。 上田さんの外地ものは、まだまだ進化していくのだろうなと感じた。 次は多島斗志之以来の海峡植民地か。 戦前の英領香港も捨てがたい。

成層圏の墓標
上田早夕里
ミステリ小説だが、単なる謎解きに終わらないのが町田そのこらしい。 主人公の同級生である吉永や、アパート経営をしている長野など、物語の本筋にはそこまで関与しない脇役の言葉が、物語を血肉の通ったものにしている。 最後の後日談の、主人公や井口が素敵。

月とアマリリス
町田 そのこ
中学受験を取り巻く悲喜こもごもを描いた一冊。 しかし、なんだろう。素材は悪くないのに、一つ一つのエピソードが、びっくりするくらい読みごたえがない。表面をさっと撫でたくらいの印象である。 受験当事者である子供の目線を重視する作者の姿勢は悪くないが、この本の読者層は親世代であることを考えると、もっと親の葛藤やジレンマをえぐり出してほしかった。おそらく、インタビューで相手が語る以上のことを聞き出す技術が欠けているのではないか。一流の聴き手は、相手の無意識をあぶり出し、相手自身の言葉で語らせるものである。

中学受験のリアル
宮本 さおり
さまざまなおひとりさまにスポットを当てた短編集。 松村比呂美さんの作品が一番短編小説らしく感じられた。昔ながらの、捻りのきいた、読んだあと「あっ」と言ってしまうような作品はお見事。

おひとりさま日和 ささやかな転機
大崎 梢/岸本葉子/坂井希久子/咲沢くれは/新津きよみ/松村比呂美
食を通して見るインドの広大さ、地域色の鮮やかさにクラクラする。 ここ20年くらいで随分マニアックなインド料理屋が増えたなと思っていたが、実は細かく見ると日本独自にカスタマイズされた部分が多いという指摘は興味深かった(インドの料理屋ではラッシーが提供されないとは知らなんだ)。 インド食器の輸入業が本業という作者の、日本国内のインド料理屋のブームの興隆についての洞察も面白い。日本のインド料理屋の提供料理の変遷(タンドリーチキンの紹介、ミールスの流行など)については一度通史的に書いてほしい。 インド好きにも、料理好きにもオススメしたい一冊。

深遠なるインド料理の世界
小林 真樹