のりこ
レビュー
手話を覚え、手話の動きを音声化する技術に助けられて、言語を自由に扱えるようになったゴリラのたどる数奇な運命。 人間とは何か、動物と人との線引きはどこでするのか、という深遠なテーマについて考えさせられる。 主人公の雌ゴリラ・ローズの個性と、彼女を理解する人たちとの会話が魅力的。

ゴリラ裁判の日
須藤 古都離
“ふるさとをあなたに”というカード会社のキャッチコピーに惹かれた都会人が、ふるさと体験をするために東北の小さな村を訪れる。そこで待っていた疑似母にあたたかく迎えられて心を開き、心の傷を癒やされて帰って行く。 ビジネスとして成り立っている一種の体験旅行だが、そこで自然に交わされる親子の会話がとても良い。母の役を演じる老婆のほうも、だまされに行く都会暮らしの顧客のほうも、心を寄せ合いお互いを案じ合って、つながっていく。 いかにも現代人の寂しい心の隙間に入り込んむようなこんなビジネスが成り立つ時代なのかも。でもビジネスを越えてつながっていく心と心が悲しくあたたかい。

母の待つ里
浅田 次郎
上巻に続いて下巻も引き込まれて読んだ。 下巻は全編 箱根駅伝の本戦を追ってストーリーは展開される。臨場感たっぷりで引き込まれた。 敗者の寄せ集めでにわかに結成された学生連合チーム。オプショナル参加で順位にも記録にも残らない闘いに全身全霊を込めて走る選手たちと、それを支える監督やスタッフたちの熱意が余すところなく描かれていて、胸が熱くなる。 箱根駅伝の歴史にも残らない歴史を生む感動の物語だ。この闘いで手にした宝は、選手ばかりでなく、かかわったすべての人のこれからの人生を支え続ける力となるだろう。

俺たちの箱根駅伝 下
池井戸 潤
ロングランを続けている映画の原作版。 豊島さんが宮崎移住の餞別にプレゼントしてくれた。 ストーリーに引き込まれ一気に読んだ。 歌舞伎という知らない世界を垣間見る。芸一筋にすべてをささげる主人公の潔さと付きまとう孤独。そこに渦巻く人々の人情と嫉妬や打算。すべてに圧倒された。

国宝 上 青春篇
吉田修一
以前 毎日新聞に連載されていた心あたたまる名作。 人の優しさが人を導き育て、受け取った優しさがまた次の世代に引き継がれていく思いやりの連鎖の物語。 その場面場面に寄り添い、絶妙なお喋りを発揮するヨウムのネネの存在が魅力的。 人の善意が素直に信じられる。

水車小屋のネネ
津村 記久子
70歳になり、老いや老人をテーマにした本を立て続けに読んでいる。 筆者は70歳を迎えたとき、あと7年を生きることを想定して、思うがままに書き記した文を一冊にまとめたそう。 いちばん心に残ったのはあとがきの一文。 老いを楽しむためには、安心して住める家や、一定の暮らしを保障する蓄えや収入、そして何よりも健康がなくてはならない。それは各人の知恵と工夫によるしかない。 それがままならない悲しい時代に生きているんだがなあ。

すごいトシヨリBOOK
池 内 紀
久しぶりの柿谷美雨さんの小説。過激なタイトルだけど、中味は家族をめぐる再生のストーリー。 70歳で誰もが死ぬことが法律で決まり、介護から解放されるとほっとする者。頑張ってこの国の繁栄を築いた老人たちの苦労をないがしろにしていると憤慨する者。重すぎる税負担にあえぐ若者たちの安堵。思いはまちまちだが、それぞれの立場に納得する。 日本はもうこんな所まで来ているのだろうか。現実味がある。

七十歳死亡法案、可決
垣谷 美雨
NHKドラマと並行して読んだ。 子供をどうしても持ちたいと願う夫婦と、貧困から代理母をビジネスとして選ぶ若い女。 どちらにも心理移入できなかったけど、夢中で読んだ。 最後のリキちゃんの決意があっぱれ!!

燕は戻ってこない
桐野 夏生