りんごのこ
レビュー
根っからのミーハーなので、ダガー賞受賞を知り文庫で買った。買ってから自宅最寄り駅まで帰るまでの数十分、家に帰ってからも更に数十分、あっという間に読み終えてしまった。 中盤のミスリードにまんまと引っかかり、種明かしでしっかり驚いた。 暴力もグロテスクな描写もあるのだが、かつて読んだほかの作家のものとは違い、描写がねちっこくなく物語の一要素として抵抗なく読める。 王谷さんご自身が文庫版のあとがき、またダガー賞の受賞スピーチでも口にされていたように、暴力を書くことに自覚的であるからこういう文章になるのだろうなと思った。残虐だか露悪的でなく疾走感があり、女は傷つけられるが悲惨さを強調するだけの道具にはならない。こんなに疾走感があって読むのが楽しい小説に久しぶりに出会った。
ネタバレを読む
ババヤガの夜
王谷 晶
韓国の小説を読むのは多分2度目。 ディストピアあり、宇宙旅行ありで、主題が豊か。 そして、さらさらとした筆致で作中の大事件もエモーショナルにならず過ぎ去っていくのが印象的だった。 鉱物の中に眠る太古の記憶を読んでいるような物語。
わたしたちが光の速さで進めないなら
キム・チョヨプ/カン・バンファ/ユン・ジヨン
もっと症例などと照らし合わせていく本かと思いきや、意外と筆者の当事者としての主観で構成された本だった。 トーべの伝記をなぞって話を進めているのだけど、比較的直接的な読みをしているので、そんなに単純でいいのかな?と感じてしまった。
なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか
横道 誠
古本で買った。今は2人とも故人になってしまったふたりの芸談、というよりも芝居に関するよもやま話といった体で、気楽にするすると読める。 本書で、自分の出番が終わったあとの役者について「むかしはみんな袖から他人の芝居を見てたものだけど、最近はすぐ帰っちゃう」「先輩がみつ豆でも食べに行こうと誘うんですって。それを断ると付き合いが悪いと言われるらしい」とやりとりされていたのが印象に残った。
芝居万華鏡
中村 又五郎/山田 五十鈴