少年と犬

少年と犬

馳 星周
文藝春秋 (2023年4月5日発売)
ISBN:9784167920210
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作品紹介・あらすじ

【2025年3月20日 映画化!  出演:高橋文哉、西野七瀬】 感涙の直木賞受賞作「少年と犬」 傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だったーー。 2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。 ある日、和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了...

感想・レビュー (4件)

心温まる。

一匹の犬を通して様々な人間模様を垣間見る短編集でした。読み手の年齢、今置かれている立場や経験によって、共感する物語に違いがあると思います。 犬の持つフシギな力も描かれています。犬を飼った経験のある人なら、きっと分かるわかる~と言いそうだなぁと。 いつか犬を飼いたいと願う私のような人間には、ヘタに期待させちゃうかもなぁと思ったりもしました。 登場する人々には決して共感できない人もいますが、では振り返って私はどう生きたいのか?と多聞(登場する犬)に問われている。 そんな気持ちがしました。

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震災から生き延びた犬多聞が、いろんな人々と交流し、最後に、熊本の光少年のところまで、たどり着くお話。生きるために犯罪に手を染めた男、壊れかけた夫婦の絆、娼婦と少年、老人と少年。娼婦は、脅された男を殺している。老人は、クマと間違われて撃たれて、死んでしまう。夫婦は夫が山から転落して、亡くなってしまう。男と泥棒も、組から追われ、死んでしまう。事故で片足を失った少女に、生きる勇気を与えた。探し求めた少年に、笑顔と言葉をあたえ、そして、その少年を守り、死んでしまう。 泣けたし、多聞、という犬、なんか、かっこよすぎる。直木賞受賞

馳星周の直木賞受賞作。 馳星周というと不夜城の影響からノワール作家としてのイメージが強すぎるのですが、この作品は少し毛色が違います。 多聞という不思議な犬が、旅する過程でいろんな人に出会い、そこで紡がれる話を連作短編集として仕立てています。 男と犬 3.11の被害の半年後、職を失い、仙台の街で運び屋をしていた中垣和正。立ち寄ったコンビニで不思議な犬に出会い、飼うことにする。犬の首輪には多聞という名前が書かれていた。 泥棒と犬 フィリピン人であるミゲルは、ゴミ山育ちであった。日本で窃盗をして金を貯めていた。手配人に裏切られ、金を持って逃げ出す際に、守り神として多聞を連れていこうとする。 夫婦と犬 中山大貴と紗英は夫婦。ある日、大貴はトレイルランの練習中に、犬に出会う。犬はどうやら大貴が熊に出会う前に追い払ってくれたようだ。犬を連れて帰る大貴。家では彼に不満をためた紗英が待っている。 少女と犬 事故で片足と両親をうしなった瑠衣は,東尋坊から飛び降りて死のうとしていた。しかし、そこで犬に出会う。幼き頃に飼っていたマックスを思い出し、飛び込みを思い止める。 娼婦と犬 娼婦の美羽は山からの帰り道、怪我した犬を拾い、獣医に連れていく。その場で、マイクロチップから多聞という名前であることを知る。美羽は犬をレオと犬を呼び、飼うことにする。 老人と犬 老いた狩人弥一は、家の庭に迷い込んだ犬を拾い、ノリツネと名付ける。弥一は狩りの名人であったが膵臓癌に冒されていた。亡き妻への贖罪の気持ちも兼ねて、自宅で延命治療もせず、亡くなろうとする弥一。ノリツネか主人を探しにいく旅の途中であることを勘づきながら、余生を共に過ごそうとする。 少年と犬 内村徹、久子の夫婦は東日本大震災の後、熊本に移り住んできていた。一人息子の光は、震災のショックで感情を失い、喋ることもなくなっていた。しかし、徹が犬を拾って帰ると、笑顔になり、感情を表現するように。笑顔を取り戻す内村一家。徹がかつての友人に連絡を取り、犬の写真を送ると驚きの事実がわかる… 各短編を通じて、必ず登場するのは多聞だけです。多聞から見たロードムービーのようにも作品は見えます。多聞を通じて、各作品の主人公たちは、自分の人生を振り返ったり、次に一歩を歩み出す勇気を得ています。7編の短編全ての語り手が、いずれも過去に犬と親しんだ経験を持っていて、犬は彼らが幸せだった時のシンボルになってるいる感じがしました。 犬を通じて読者に人生を顧みさせる、そんな経験をさせてくれる小説だと思います。 少女と犬や、少年と犬の短編のように、感動的な話で全てを綴っても良いはずなのに、泥棒と犬や娼婦と犬のようなノワール的な作品をいれてくるあたりに、馳星周らしさを感じて仕方ありません。 25年3月に映画も公開するようなので見てみたいと思います。 にしても、犬を使って泣かせるのは反則だよねぇ笑

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