文庫 坂の途中の家

文庫 坂の途中の家

角田光代
朝日新聞出版 (2018年12月7日発売)
ISBN:9784022649089
本棚登録:87

作品紹介・あらすじ

刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子供を殺した母親をめぐる証言にふれるうち、彼女の境遇に自らを重ねていくのだったー。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの光と闇に迫る、感情移入度100パーセントの心理サスペンス。

感想・レビュー (4件)

裁判員になったことで普段では向き合うことのなかった事件にふれることにより自分と重ね合わせてしまう。 当然ありうることで何気なく普通に幸せと感じていた日常を深く考えさせられてしまうことの怖さ。

8か月の娘を風呂で溺死させてしまった水穂の裁判に、補充裁判員として参加することになった里沙子。裁判を傍聴するうちに水穂と自分を重ね合わせていく。わかる、子育て中の専業主婦の気持ち。社会に置いて行かれた感じ、どこにも所属していない不安。扶養家族という立場ゆえの夫への遠慮。里沙子は裁判を自分劇場として観覧するうち、次第に被害妄想がとまらなくなる。筆者の作品を読むたびに思う。筆者はなぜこんなに私たちのことを知っているのか。直視したくない内心を毎回突きつけられる。

理解できるが共感はできない

裁判員になった事件の加害者の感情にかなり引きずられていたり、旦那に必要以上に思える気遣いをしている主人公にイライラしました…。 でもずっと家という閉鎖空間にいると、旦那の言動とか自分の言動とか態度とか、すごく些細なことが気になるようになるのも理解できて… 私も小さい子を持つ母として読んで共感できる部分が多く、読んでいてじわーっと嫌な気持ちになっていく作品でした。事件の加害者とも、主人公とも同じような感情を私も持っているなぁ…と気づき怖くなりました。