
レビュー (3件)
この本は、「思いを言葉にして伝えられること」が、どれほど尊くて幸せなことかを、あらためて気づかせてくれました。 一つ目の奇跡は、「言葉が使えること」。 そして二つ目の奇跡は、「その言葉で、思いを届けたい相手に、ちゃんと届けられること」。 それがどれだけの恵みや奇跡の積み重ねのうえにあるのかを思うと、日々のやりとりさえも愛おしく感じます。 人は、生まれてから少しずつ言葉を覚えていきます。けれど、どんな言葉を覚えるかは、育った環境によって違ってきます。 特に「感情を表す言葉」は、身のまわりの大人たちが日々どんなふうに言葉を使っているかが、とても大きく影響するのだと思います。 やさしさや感謝に満ちた言葉がそばにあれば、そのような気持ちが育ちやすくなり、反対に、乱暴な言葉ばかりが飛び交う環境では、心の表現も偏りやすくなるのかもしれません。 私たちは、言葉を使って考え、感じています。 「はじめに言葉ありき」という言葉のとおり、言葉は人生の土台にもなっているのですね。 本の中では、安先生という教育者が、知識や教養だけでなく、言葉の力を通して一人の人生に奇跡を起こした姿が描かれていました。 子どもたちと関わる大人が、どれほど大きな影響を与える存在なのか──私たち一人ひとりが、そのことにもっと自覚的でありたいと思いました。 家庭では親の言葉が、職場では上司や同僚の言葉が、そして社会全体の空気が、私たちの日常や心のありように静かに、けれど確かに影響を与えています。 だからこそ、「どんな言葉を使うか」は、とても大切な選択だと思います。 言葉は時代とともに変わっていくものではありますが、それでも、「言葉が人をつくる」ということを忘れずにいたい。 その素晴らしさと同時に、時に人を傷つける怖さも、しっかり心にとめておきたいと思います。 私たちは、言葉によって人間らしくなっていく。 そんなふうに、もっと言葉を大切にしながら、自分の思いや感情を丁寧に育てていけたら…と、やさしい気持ちになれる一冊でした。
日本版ヘレン・ケラー。壮大なストーリーに感動。グイグイ惹き込む容赦ない筆致力に脱帽。 道を切り開くのは信じる力と情熱に他ならない。 れんと向き合う安のひたむきさと熱意に胸打たれる。 教育の大切さ、言葉のもつ奇跡を感じずにはいられない。
ヘレンケラーの話を日本に置き換えた小説。確かに三重苦の主人公「れん」と去場安との激しい葛藤にはとても厳しいものがある。物には名前があり、意味がある、と言うことを理解するまでの苦悩が詳しく書いてあり、それは臨場感のある展開だった。 しかし、れんの少女時代に出会った唯一の友達「キワ」とわずか3ヶ月足らず別れざるをえなくなってからの展開は書き急いでいる感じがした。 キワが津軽三味線の人間国宝に認定され、何十年振りかにれんと再開した時の描写には感激できるものはあまりなかった。 二人が別れてからの繋がりがとても弱い感じがする。 少し残念だった。 しかし、日本には盲目の方の生きる道があり、受け入れる社会であったことに今更ながら気付いた。 差別はあったものの、昔から多様性のある人を生かす道を持っていた国であったことにこの国の懐の深さを感じた。