薄雪
薄雪

2025年5月1日

中村融編、創元SF文庫の『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』です。時間旅行をテーマにしたSF作品の短編集で、ロマンティックな要素が強調されている作品が多いです。 私の好きな短編集です。 以下のような作品が収録されています。 ウィリアム・M・リー「チャリティのことづて」 時間を超えた友情を描いた作品です。 西暦1700年の夏を過ごすチャリティ・ペインと、1965年のピーター・ペインはお互いそれぞれの時代で重い病に侵され、熱にうなされることをきっかけとして、時を超えて会話できるようになりました。お互いの視界や味覚や嗅覚も共有できます。20世紀の世界を見てただひたすらおどろくチャリティ。18世紀の時代にて、20世紀の経験を喋ってしまうことに。そのことで、チャリティは魔女として疑われることに・・・。 デーモン・ナイト「むかしをいまに」 とても変わった小説。サリヴァンが交通事故で亡くなるシーンから始まります。時は少しづつ逆転していきます。サリヴァンは生き返り、年老いた妻のエミリーははだんだんと若返り、美しくなっていきます。仕事はだんだんと規模が縮小していき、ゼロからのスタートになります。子供は妻のお腹の中に納まり、生まれていない状態となります。エミリーとは出会う前の状態に戻り、サリヴァンは子供になり、母の葬儀に立ち会い、やがてとある病院の病室に向かった彼が見たものとは・・・。 ジャック・フィニイ「台詞指導」 この短編集の中で最も好きな作品です。ジェシカ・マクスウェルは駆け出しのとても美しい女優。ジェイクはしがない映画のセリフ指導係。 西海岸からニューヨークへ向かう列車の中で、ジェイクはジェシカにセリフの指導をしていました。残念ながらジェシカは恋愛の経験が薄く、優れた演技ができません。ニューヨークについた後の撮影においても苦労をしていました。ある晩、ニューヨークのマンハッタン市街にて、ロケ班は翌日撮影に使うバスを走らせていました。ジェシカもジェイクもバスに乗り込んでいました。ところがバスは・・・。 「愛はあとまわしにはできない。先延ばしにすれば死んでしまう」という言葉の重みを、時の流れの果てに味わえます。 ウィルマー・H・シラス「かえりみれば」 成人女性のブラウンは、教授の催眠術によって30年も過去へタイムスリップしてしまう。過去において天才として扱われそうになったブラウンは・・・・? バート・K・ファイラー「時のいたみ」 40歳のフレッチャーは、40歳の鍛え上げた体をもって、36歳のある日の朝にタイムスリップをしてきました。未来の記憶は受け継がないという条件付きで。。なぜタイムスリップをしてきたかは、フレッチャーにも妻のサリーにもわかりません。フレッチャーとサリーはサイクリングに出かけますが…。 ロバート・F・ヤング「時が新しかったころ」 カーペンターは、恐竜のいる時代にタイムスリップし、考古学的な調査をしていました。ところが白亜紀後期のその時代において、恐竜から逃がれるためい樹上にいた少女と少年、マーシーとスキップに出会います。二人はその時代の火星のエリートで誘拐犯にさらわれ、脱走してきたのだといいます。2人を匿い、誘拐犯との闘争し、苦境に陥るカーペンター。そこに迎えにきた人物とは・・・? チャールズ・L・ハーネス「時の娘」 タイトルトラック。 この短編集の中でもっともタイムパラドックスにあふれた作品です。物語の主人公である女性は、母親との複雑な関係に悩まされています。彼女は幼少期から、母親によって学校に通わせてもらえず、代わりに自身が生まれてからの全ての新聞の見出しを暗記させられるという特異な教育を受けてきました。母親は未来を予測することで生計を立てており、その予測は非常に的中率が高いものでした。主人公は成長するにつれ、母親と同じ男性に惹かれるなど、母親と自身の人生が奇妙に重なり合っていることに気づきます。さらに、母親が1977年6月3日をもって予測業を引退すると宣言したことから、物語は予期せぬ展開を迎えていきます・・・。 C・L・ムーア「出会いのとき巡りきて」 エリック・ロスナーは、世界中の様々な冒険、戦争を経験してきた戦士。もはや全てが退屈に感じられ、倦怠感にとらわれていました。そんなとき、ある科学者ウォルター・ダウに出会います。 ダウの提案をきっかけとして、ダウの発明したタイムマシンでエリックは時間旅行に乗り出すことになりました。イギリスを、ローマを、見知らぬ文明の時代を巡っていくエリック。彼はやがてどの時代においても、スモークブルーの瞳をもった美しい女に出会うことに気づきます。時代を超えた運命の愛の話です。 ロバート・M・グリーン・ジュニア「インキーに詫びる」 精神的な時間と物理的な時間軸が混じり合う幻想的な作品です。でもこの短編集一の難解さかもしれません。ウォルトン・アスターは1965年に幼馴染のモイラに出会いに行きます。 そして、1931年の日々、モイラとの思い出、犬のインキーの悲劇の死を思い出す・・・。 どうしてタイムトラベルと恋愛物語は相性が良いのでしょうね。きっと愛には時間が必要だから。タイムトラベルは、一瞬で物語の中の主人公たちの時間を飛び越えさせますが、時が流れていないわけじゃないんです。むしろ時間旅行が辛かったり苦しかったりする長い時の流れや、うちに秘めた想いを照らし出す役割を果たしてくれます。 何年経ってもきっと。 「その人に愛してると言ったら、きっとあなたの腕の中に飛び込んできます。」

時の娘

時の娘

ジャック・フィニイ/ロバート・F.ヤング

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