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講談社 諏訪部浩一氏の『チャンドラー講義』 文庫本化するまで待とうかなとも思ったのですが、こういった本は文庫本にはならないのかな、とも思ったので。 『チャンドラー講義』の12章の章立ては以下の通りです。 1. イントロダクション 2. チャンドラー以前のチャンドラー- 詩とエッセイ 3. パルプ作家時代- 短編小説 4. マーロウ登場 - 『大いなる眠り』 5. シリーズの始まり - 『さよなら、愛しい人』 6. 弱者の味方- 『高い窓』 7. 戦争の影- 『水底の女』 8. チャンドラー、ハリウッドへ行く- 映画シナリオ 9. 依頼人のいない世界- 『リトル・シスター』 10. 人間としてのマーロウ- 『ロング・グッドバイ』(1) 11. チャンドラー文学の到達点- 『ロング・グッドバイ』(2) 12. 未完のプロジェクト- 『プレイバック』 チャンドラーの作品を、それが書かれた際の時代やチャンドラーの年齢や立場をもとに読み解いています。 諏訪部さんはチャンドラーを単なる「ハードボイルド作家」としてではなく、探偵小説の枠を超えてた作家として捉えています。また、チャンドラーの作品が持つ「揺らぎ」や「変化」に注目し、彼が一貫して自己のスタイルを模索し続けた作家であるとも書かれています。 って私は批評家でもないので、細かいところはいいのですが。確かに作品ごとに少しづつ違うマーロウ像への理解を深めるにはとても良い講義だと思います。また、チャンドラー自身の苦しみが反映されているからこそ、容易ならざるシリーズものとして、彼の7つの長編がそれぞれ傑作になっているんだろうなぁと思いました。 ただチャンドラーはとても好きな作家ですし、個人的にはあまり批評的に掘り下げたくはないかな、とも思いました。自分が読んだ際の感性や感動を大事にしたいなとも思ってはいて。 それだからこそ、諏訪部さんがあとがきで「「タフでなければ、生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」という美学は相対化できるようなものではなかった」とも書かれていて、なにかわたしもそれを読んでほっとしました。 ああ、プロの訳者さんや批評家さんも、みんな本当にフィリップ・マーロウが好きなんだなって。 レイモンド・チャンドラーが好きで、フィリップ・マーロウを愛していて、もっとその世界観を深めたい人にはおすすめの解説書です。
