
2025年3月30日
パイロットフィッシュ 「人は一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人気には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶と共に現在を生きているからである」という文書から、この本は始まります。 アダルト雑誌の編集者をしている主人公山崎のもとに、真夜中に電話がかかってくる。声だけで誰かを理解する主人公。それは大学時代の彼女である由希子だった。 由希子は、かつて山崎が就職で苦労していた頃に、編集者として勤める文人出版を探してきた女性であった。また、大学に馴染めず、アパートの一室で沈んでいた山崎を救い出した女性でもあった。 電話の話の中でパイロットフィッシュの話を由希子にする山崎。パイロットフィッシュとは、水槽の環境づくりのために一番最初に水槽に入れる魚のこと。 由希子と電話から、かつての自分を想起し、いろいろなことを思い出す山崎。 2人はプリクラを取るために新宿駅南口で待ち合わせをすることになる…。 個人的にはとても難しくて、残酷な結末の本だな、と思いました。一度巡りあった人とは二度と別れられない。時として、バイカル湖のように、心の深いところから記憶が湧いてくることがある。それが懐かしい記憶であったり、心の支えだったりすることもある。場合によっては、パイロットフィッシュのように誰かが環境を支えてくれていたことに気づくこともある。 でも、時として誰かが作り出した生態系から逃げ出せず苦しむこともある。由希子のように。 人は巡りあった人と二度と別れることはできない。そう尻尾とちぎれた犬が尻尾を追いかけるように、いつまでも同じところを回り続けているのかもしれない。 どうしても、人は同じ過ちをしたり、過去の辛い記憶や人間関係から抜け出せないことがある。 そのことをこの小説は想起させます。
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パイロットフィッシュ
大崎 善生/鈴木成一デザイン室