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『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』 大崎善生さんの短編集です。 以下の4編が収められています。 1. キャトルセプタンブル 主人公・理沙の母親は、かつてパリで村川健二という頼りない男性と出会っていた。1週間を共に過ごた後、彼女は彼に再会場所として「キャトルセプタンブル」というパリの地下鉄駅名を手紙で伝えた。しかし、その場所に村川はこなかった。 理沙は高校生になって、付き合っていた智也に振られた。彼だけと青春を過ごしてきた理沙は他の人間とうまくつながれず、孤独の底に落ちる。 やがて理沙はかつて母より聞いた話を思い出し、キャトルセプタンブルに赴く。 2. 容認できない海に、やがて君は沈む かれんは以前大好きだった父に去られていた。その際、「容認できない海に、やがて君は沈む それを」という書きかけの手紙を残されていた。高校生となったかれんは、友人の涼子と彼氏であった雅也と3角関係を経験する。そして、孤独感を味わい、周囲の人間が砂に見えていく。 3. ドイツイエロー 大学時代、理佐子は洋一という男性と出会う。付き合うようになるが、洋一はグッピーのドイツイエローの系統維持に夢中であった。理沙子は順調に大学を卒業し、社会に出ていくが、洋一は危ういドイツイエローの育成に夢中のままである。ある日、洋一はふとしたミスからドイツイエローをほぼ全滅させてしまう。それきり、行方をくらましてしまう洋一。 4. いつか、マヨール広場で 高校生のとき、彼氏から振られて以来孤独を抱えて生きてきた礼子。ハンガリーの青い空のイメージを常に脳裏に描いてきた。東西ドイツ統一の際に、東ドイツから西側に逃れる際に仰ぎ見たハンガリーの空だ。 大学生のときには、礼子は森川卓也と一夜を共に過ごす。彼の部屋にはスペインのマヨール広場を描いた風景画が飾られていた。 いずれも女性を主人公に据えています。こんなふうに女性が感じることはあるだろうか、と読みながら考えることもありますが、多分話の主題はそこではないです。いずれも喪失を味わった女性たち。次に誰かと恋に落ちて回復するのではなくて、父や母の記憶や、かつての彼のよすがから、立ち上がるきっかりを掴んでいきます。 よくあるハッピーエンドで終わる話がないため、かえって主人公たちの味わう孤独への親近感がわきます。ああ、あるこうやって孤独の底の落ちること、人と上手く繋がれないこと、人間ならあるよねって。
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