人恋しい雨の夜に

人恋しい雨の夜に

浅田次郎/日本ペンクラブ
読者数: 2
発売日: 2006/5/31
出版社: 光文社
ISBN: 9784334740733

レビュー (1件)

浅田次郎選の光文社文庫の短編集『人恋しい雨の夜に』 タイトルとジャケットから買ってしまった作品です。 トルーマン・カポーティ「ミリアム」 不気味で幻想的な雰囲気を持つ物語です。主人公は孤独な老婦人ミラー夫人。彼女はある雪の日に映画館で謎めいた少女ミリアムと出会います。この少女は、夫人の生活に徐々に入り込み、彼女の静かな日常をかき乱していきます。 ミリアムは夫人の家に押しかけ、サンドイッチを作らせたり、夫人の大切なブローチを欲しがったりと、奇妙で不気味な行動を繰り返します。最後にはミリアムは大きな荷物を持って現れ、夫人の部屋に居座るようになります。この少女の正体は。 宮部みゆき「いつも二人で」 相原真琴は、あるマンションの部屋の留守番を頼まれます。するとその晩、姫野君絵と名乗る女性の幽霊に体に憑依されます。優しい真琴は君絵のために身体を貸すことを承諾します。生者の身体を乗っ取ってまで果たそうとする君絵の目的とは…。 芥川龍之介「蜃気楼」 主人公「僕」が友人たちと鵠沼海岸へ蜃気楼を見に行くところから始まります。しかし、期待していた蜃気楼は現れず、ただ砂の上に青いものが揺らめいているだけです。主人公たちが海岸を歩きながら、木札や靴などの不気味なものを見つけますが、とりたてて事件はありません。妻や友人たちは陽気ですし、話の起承転結もありません。なにか不思議な話です。 井上ひさし「あくる朝の蝉」 夏の日の郷愁を誘う、兄弟と祖母の切ない物語です。孤児院での生活に嫌気がさした兄弟は、夏休みに祖母の家に行きます。そして、ずっとそこに置いてくれるように頼みます。2人を哀れに思い、なんとか家に止めようとする祖母は…。昔の日本の夏の情景が郷愁を誘う話です。 魯迅「孔乙己」 社会の底辺に生きる人々の悲哀を描いた作品です。中国のとある貧村に孔乙己(コンイーチー)という人物がいました。学のある人物のようですが手癖が悪く盗みを働き職をよく失っていました。語り手は、孔がいるときは飲み屋で笑いが絶えないことを覚えています。 三浦哲郎「盆土産」 東京で働く父から電報が来ます。エビフライを盆の休みに持って帰ってくるそうです。祖母も姉も私も、エビフライが何か想像できません。列車とパスを乗り継いで帰ってきた父は、冷凍されたエビフライを揚げます。そのおいしさといったら。父は休みを1日半しかもらえなかったためすぐに帰京します。お盆の切ない思い出のお話し。 小泉八雲「日本人の微笑」 日本文化の美しさを描いた作品。日本人の微笑みの意味が探求されています 。 梶井基次郎「Kの焦点」 病気療養中の「私」が、N海岸で青年Kと出会います。Kは満月の夜に自分の影をじっと見つめる奇妙な行動をしています。Kは影を凝視することで、自分の魂が月へ昇っていくような感覚を得ると語ります。この出会いをきっかけに、「私」とKは親しくなり、療養地での時間を共に過ごします。やがてKは… 平家物語 平家の栄華と没落が描かれています 。 浅田次郎「ひなまつり」 主人公は小学6年生の少女弥生。彼女はシングルマザーの母親と二人暮らしをしています。母親は夜の仕事をしており、少女は一人で過ごす時間が多くなっています。紙製のひな人形を作ることに夢中になっている中、以前隣に住んでいた12歳年上の男性吉井さんが訪れてきます。吉井さんは、弥生を娘のようにかわいがり、弥生もまた彼が父親になってくれたらと願っていました。しかし、吉井さんはなぜか引っ越してしまいます。それでも、吉井さんは時折訪れて彼女を気遣い、本物のひな人形をプレゼントしてくれます。そんな吉井さんと弥生の関係を通じて、昭和の時代の少女の切なさと孤独を綴っています。弥生はオリンピックなんて大嫌い。仕事に疲れている母を少しも楽にしてくれないから。 胸にじんわりとくる作品が多い短編集でした。 選者の浅田次郎はこう述べています。 「美しい物語を読んでいれば、人生は汚れない。」

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