2025年3月16日
彩葉の昔読みたい本に登録してあった中の一冊で イギリス最高の文学賞であるブッカー賞とコスタ賞の処女作賞の最終候補作となった作品である。 とてつもなく奇妙な話が10話綴られていた。 これは今の時代なら犯罪だよと言う話しとそのギリギリのラインを生きる人たち。私が1番心に残った物語は、もはや後影もなく、と言う作品だ。 フィンと言う少年が子ども頃に父親が出て行って 母親と2人暮らしなのだが、母親は頑固で口うるさくとうとう禁断の言葉を口にしてしまう。そんなだから、父さんにも捨てられちまうんだよ、 と。彼は最初酷い寒気を感じそれはまるで遥かな 高みから落下するような、空虚で猛烈な感情を感じた。が直ぐに熱い怒りが燃え上がる。さっきの 言葉の代償を母親に払わせてやる、自分が傷いた よりもずっと深く。母親の言葉に取り囲まれ ながら幾度も考えていた家出を結構する。母親は なんて事を言ってしまったのか後悔していたが 彼に届くはずもない。彼は何度か少しだけ入った ことのある森の奥深くに入っていく。そして その瞬間フィンは土と木の香り物音全てが心地よく感じる。想像していたものとはまるで違う 森は生きていると感じるのだ。そして長い時間を 過ごすのだが、一度は母親が探している声も聞こえるがずっと森の奥深くに入っていく。そして 一匹の犬と出会う。長い長い時間を彼と共に暮らす事で会話もできるようになる。ある日見覚えのある場所に着く。以前入ってきた森の入り口だ。 フィンは家に帰って窓の外からそっと覗くと 歳を重ねた母親が椅子にもたれ掛かっていた。 すぐにでも、抱きしめてしまいたい気持ちに 駆られるが自分にはそれができないことに気づいた。森の中で慣れ親しんできたあの暮らしから 自分を引き剥がし、昔の暮らしなどできはしない のだとまるで幽霊のように窓辺に立ち尽くしたまま母親見つめ続けるのだった。そして記憶の 嵐に取り巻かれるようにして、もと来た道を駆け 戻った。少年は森で過ごした幾つもの夜よりも、 今の夜闇は荒涼として恐ろしく感じた。犬が森の 入り口で待っていた。犬が何があったのかを 探ろうとしても彼は黙ったまま森の奥へ帰って 行った。と言う内容である。 近年の世代の中で居なくなってしまいたい 或いは異世界へ行きたいなどと思う人が多いと いう。以前「行方不明展」という展覧会が好評 だった。この展覧会の答えはないし、色々な見方 があるので何とも言えないが不思議とこんな 昔から色々な事情があって行方不明になるということが児童文学で書かれていたと言う事に非常に 興味深い思いがした。
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10の奇妙な話
ミック・ジャクソン/田内志文
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