
レビュー (1件)
高田大介「記憶の対位法」読了。 難しい、難しい。 自分のこれまでの知識を総動員しても 文章についていくのに精一杯だ。 なのになんだこの面白さは。 知見が広がる。 知的好奇心がくすぐられる。 知識が増える。 たまらない。たまらないぞこれ。 戦争、差別、宗教、思想、そして音楽。 これだけのものをよく一冊の本の中に 詰め込めたものだ。 驚嘆しかない。 最初の方は主人公ジャンゴの祖父の話。なぜ祖父は対独協力者と断罪されたのか。ここで第二次世界大戦時のドイツとフランスの関係性の説明がある。これはしばらく前に「同志少女よ、敵を撃て」を読んでいたので比較的スムーズに理解できた。同志少女はドイツとロシアの関係で東側の話で、今回は西側の話なのねと。そのおじいさんが残した黒檀の小箱。それは一体何を意味するのか。 次にイスラム教とイスラム原理主義のテロに対する話。ジャンゴとその上司であるレオンが差別の考え方で議論を交わす。ジャンゴと同じ様に自分自身もいろんな物事は基本的には中立で見ようとしていた、いや見ているつもりだった。しかし、レオンの話を聞くと、差別とはいったいなんなのだろうかと思ってしまう。それともうひとつ「記憶の法律」。これも初めて聞いた言葉。記憶とは。歴史的に正しい記憶とは誰が決めるべきものなのだろうか...難しい問題。考えさせられる。 祖父の謎と、新聞社での仕事と、友人が受ける不当な差別に対する憤りなど、様々な想いが重なり混ざり合いながら、ジャンゴが子供の頃から馴染みのある聖堂をみて改めて感じる想い。 ここに「神を信じたもの達がいた、居続けた」 そしてその想いが石造りの大聖堂を建てさせたのかという感銘。到底一代では築き上げることのできないような巨大な建築物を何代にも渡って作る、作らせ続けるほどの想い。 更にその中で響く「教皇マルチェルスのミサ曲」。 ジャンゴと同じようにネットで検索して聴いてしまった。聖堂の中で音が跳ね返り幾重にもなって跳ね返った音の重なりと輪唱(カノン)による音の重なり。それら全てを計算してハルモニアが作られる。これまでミサの歌は聴いたことぐらいはあったけど、いやはや。こんなにも深いものだったなんて。 そしてタイトル「記憶の対位法」。 ここに集約するのか。鳥肌が立った。 これは「まほり」を読んだ時と同じ感覚かも。 たった一文に鳥肌が立つ。 すごい。すごい小説だ。 でも決して万人には勧めないかも。 何しろすごい密度なのだもの。