国宝 上

国宝 上

吉田修一
朝日新聞出版 (2018年9月7日発売)
ISBN:9784022515650
本棚登録:71

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」。侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。『悪人』から10年、新たな最高傑作。

感想・レビュー (1件)

映画では、喜久雄は歌舞伎にしか興味がなくそれ以外には熱量のない冷めた人柄の印象があったが、本書では違った印象であった。喜久雄が一人称で物語が進行しているため喜久雄の感情は常に描写されており、人間らしく生々しい印象を受ける。歌舞伎が好きでそれ以外は内向的ではあるが、友人たちと親密にしていたり、市駒ともお互い納得した上で結納していなかったり、人間らしいあたたかさは持ち合わせている。俊坊がいなくなったあとの喜久雄も、三代目半二郎を継いだとはいえ名前に見合った出世道には乗っておらず、やはり2人で藤娘を踊っていた未成年期がいちばん喜久雄にとって幸福であったことは、徳次の「俊坊がいなくならなければ喜久雄もここまではならんかった」という発言で回顧させられる。寧ろ戻ってきてからの俊坊こそよそよそしく、喜久雄の歩み寄りを無下にする冷たい印象を受ける。映画での喜久雄は誰にも頼らず孤独であるが、徳次やそのほか友人たちの存在が喜久雄を人間らしく描いているのか。

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